小児科医は多くの場合、お子さんのご両親に、お子さんへの予防接種を勧めます。しかし、一部のワクチンはそうではありません。それが風疹ワクチンです。実際のところ、風疹ワクチンは、妊娠を希望する女性が、これから「おじいちゃん」になる、ご自身の父親に勧めるワクチンです。風疹はかつては5年の周期で流行を繰り返し、最後の流行は平成25年、全国で14344例の発症が報告され、その後も海外からの帰国者のもちこみなどによって、毎年100例から300例の風疹患者さんが報告されています。
風疹は、典型的には、発熱、リンパ節腫脹、全身のぶつぶつといった症状がみられますが、症状のはっきりしない場合(不顕性感染)も15%から30%みられます。小児では症状は軽く、また、一度かかるとほとんどの場合、再び感染することはなく、比較的予後良好な疾患です。
しかし、風疹のこわいところはふたつあります。ひとつは、ひとりの患者さんが周囲の5人から7人にうつす感染力の強さ(風疹の感染力はコロナウイルス感染症のオミクロン株よりも強い)であり、もうひとつは、妊娠18週までの妊婦さんが風疹にかかると、お腹の赤ちゃんが先天性風疹症候群にかかり、重い障害が残ることです。先天性風疹症候群は、先天性心疾患や難聴、先天性緑内障、小頭症や精神遅滞の障害を起こします。平成25年の流行が影響した平成24年10月から平成26年10月には、45人の先天性風しん症候群の赤ちゃんが報告されています。
風疹はワクチンで予防でき、現在は、定期予防接種である麻疹風疹ワクチン(MRワクチン)によって、子ども達は守られています。しかし、風疹に対するワクチンを打っていないのが、昭和37年度から昭和53年度生まれ(令和5年に45才から61才になる)の男性です。風疹ワクチンの抗体を持っていない人は風疹にかかる可能性があり、妊娠18週までの妊婦さんが風疹にかかると、お腹の赤ちゃんが「先天性風疹症候群」にかかる可能性があります。
お腹の赤ちゃんを風疹から守るために、これから「おじいちゃん」になるお父さんに風疹ワクチン接種を勧めましょう。大阪大学感染症総合教育研究拠点で、わかりやすい動画を公開していますので紹介します。
風しんの抗体検査受検・ワクチン接種 勧奨PJT|ウエディング篇(2022年度版)
同じように、お腹の赤ちゃんに先天性の障害を引き起こす病原体として、サイトメガロウイルスや梅毒、トキソプラズマ、ヘルペスが知られています。こどもと接触する機会の多い保育士さんや幼稚園の先生でとくに注意の必要な感染症です。また別の機会に説明しましょう。
参考:
風疹について|厚生労働省
先天性風疹症候群とは|国立感染症研究所
風疹の追加的対策について|厚生労働省